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海外FD研修
第2回 FD研修
第2回海外FD研修報告書
大学院工学研究科生命先端工学専攻 金谷茂則

 

研修場所:米国カリフォルニア州立大学フルトン校(CSUF, Cal State Fullerton)

研修期間:2009年9月21日(月)−10月2日(金)

参加教員:写真右から福井教授、古賀助教、渡部教授、小生、久木助教

 

CSUFについて:

 CSUFはロサンゼルスの南約50kmに位置し、キャンパスは南カリフォルニア特有の陽光溢れる爽やかな気候に恵まれている。雨はほとんど降らない。研修期間中は例年より気温が高かったとのことで、最高気温は連日30度を超えたが、湿度が低いのと朝夕は20度ほどに下がることから、非常に快適で過ごしやすかった。ただ、建物内はエアコンが強めなので長袖のシャツを着るか上着を携帯する方が無難である。CSUFは学生数が3万7千人に達するカリフォルニア州最大の州立大学で、世界中80もの国から多くの留学生を受け入れている。そのためにキャンパスは様々な人種の学生で溢れ活気に満ちている。経済学部が中心で社会人学生も受け入れていることから講義は夜間も開講している。卒業後の学生の進路は様々であるが、多くの学生がワンランク上のUCSFやUCLAに進学する。

 

研修内容:

 この研修は、大学院英語コース「フロンティアバイオテクノロジー」担当教員の英語による授業の教授方法、教育方法の向上を目指して昨年度より実施しているものである。研修は主として、阪大教員を対象とする講義(Lectures and Workshops)の受講、学部および大学院の授業参観(Class observation)、およびメンター教授のクラスでの講演(Presentation)から構成されている。私たちが受講する講義の講師は、Ms. Cindy Bertea、Mr. John Marshall、Mr. Bruce Rubinの3名であった。いずれの講義も内容的には大変興味深く今後の教育活動に大変参考になったが、受講者がわずか5名であることと、毎回宿題がでることから、日程的には結構ハードであった。

 Cindyの講義は英語による発表技術(Presentation and Pronunciation skills)に関するもので、1回あたり2時間、計5回実施された。講義は毎回パワーポイントを用いて進められ、その印刷物はもちろん、適宜教材も配布された。対話型授業をかなり強く意識した内容で、私達への質問も多く、私達が授業に集中できるように良く工夫されていた。例えば私も、日本人が間違いやすい発音例として、LAX(ロサンゼルス空港)の発音を質問され元気良くラックスと答えたが、残念ながら答えはエル・エー・エックスであった。講義の内容は英語の発音やイントネーションだけでなく、発表方法までカバーしており大変勉強になった。特に、パワーポイントを用いて発表する場合に、自己紹介から結論まで、どのような点に注意を払えば学生の注意を引き付け、発表の要点を理解させることができるかがわかり、大変参考になった。これらの注意点は、日本語で講義やセミナーを行う場合にも適用できることから、英語コースを担当していない教員にとっても大変役立つと思われた。従って、教員をCSUFから招聘して研修を実施するにせよ阪大から教員を派遣してCSUFで研修を実施するにせよ、阪大教員の教授方法や教育方法のレベルアップを図るためには、私達が受講した研修を若手教員や大学院生が受講する機会を増やす必要があると強く感じた。

 一方、JohnとBruceの講義は、対話型、能動型授業(Interactive Learning, Active Learning)の進め方やクラスマネージメントに関するもの(Faculty Development Workshop)で、Johnの講義は3時間x2回、Bruceの講義は2.5時間x4回実施された。Johnの講義はどちらかというと演習のようなスタイルで、各自に2ページぐらいの論文を読ませその内容についてグループディスカッションをすることにより、質疑応答の仕方を学ぶというものであった。例えば、「I didn’t understand you」とか「Could you repeat it」の代わりに、「I didn’t quite follow you. Could you just go through that last point again?」とか「Could you just go into that in a little more detail?」と言う方がマイルドだし、「Nonsense!」の代わりに「I am sorry but I am afraid I cannot really accept that」とか「I cannot believe that what you are saying is true」と言う方が上品である。このような言い回しを使ってディスカッションを進めるのが講義の狙いであったが、そもそも割り当てられた論文の内容が難解でそれを理解するのに苦労した。例えば、私に割り当てられた論文はイギリス沿岸で活躍する救命ボートの陸地運搬装置に関するものであったが、なぜそのような装置が必要なのか状況が理解できなくて困った。結局、イギリスでは干潮時と満潮時で海面が10メートル以上も上下するため救命ボートが丘の上やはるか内陸に取り残され、そのために陸地を運搬する装置が必要とのことであった。Bruceの講義は、授業参観の後、その授業について何が印象に残ったか、何が驚きだったか、最も教育効果が高いと思ったのは何だったか、逆に効果的でないと思ったのは何だったか、学生の興味を引くためにどのような工夫がされていたか、学生は授業に関心を持っていたか等々、私達の意見を聞き、ディスカッションすることにより、対話型教育を可能にする方法を考えさせ学ばせるというものであった。阪大とCSUFでは学生の受講態度の差は歴然としており、それが何に起因するのか討論することにより、対話型授業の重要性を改めて強く認識した。ただし、阪大でも学生を授業に集中させるために教員は努力しているが、受講者数が60名と多いことや、教えなければならない教科書の範囲が広すぎることから、なかなか対話型学習(Interactive learning)や能動的学習(Active leaning)の環境を整えるのは困難というのが現状である。

 授業参観(Class observation)は上述のように、参加者全員で参観するものとメンター教授の授業を参観するものと2種類あったが、いずれの授業でも学生はほとんど遅刻せず、熱心に聴講しているのが印象的であった。熱心にというのは一心不乱にという意味ではなく、先生の話に興味をもち楽しんでいるという意味である。特に、参加者全員で参観したBIOL-171の授業は学部1年生約200名を対象にした生物の授業であったが、90%以上の学生が授業に集中していることに驚いた。第1回海外FD研修に参加した教員の先生方が報告されていたように、講師の質問に対する学生の答えが瞬時に集計されるPersonal Response System (PRS)導入の効果が大きいように思われるが、それ以外にも、階段教室を何回も上り下りする、学生の反応に注意を凝らす、学生に議論の場を提供する、など学生を飽きさせない工夫がされていたためと思われる。メンター教授の授業参観は、私の場合は学部4年生と大学院1年生の少人数(20名弱)の授業であったことから、学生に頻繁に質問し答えさせることが可能で、対話型、能動型授業を行うことができるのは当然と思われた。対話型授業を効果的に行うためには全員の名前を覚えることが不可欠で、そのためには受講者数は20名程度であることが望ましいと思われた。

 メンター教授のクラスでの授業(Presentation)は、FD研修の集大成として位置づけられる。私のメンター教授はアルゼンチン人のProf. Marcelo Tolmaskyであった。彼の専門分野は応用微生物学で抗生物質耐性菌の分子遺伝学に関する研究を行っており、私とは多少異なるが、彼の授業内容は理解できた。授業は学部4年生対象の授業を週3コマ(3時間x2、1時間x1)、大学院1年生対象の授業を週1コマ(3時間)を担当しており、阪大教員と比較すると授業の負担はかなり大きいように感じられた。ただし、いずれの授業も実験、演習を行い、その結果について質疑応答する形式で進められるが、実験内容はProf. Tolmaskyの研究の一部なので、どちらかというと日本の大学の卒業研究に近いように思われた。CSUFでは4年生の卒業研究は行わないので、Prof. Tolmaskyの授業がそれに対応するように思われる。一方、大学院の方は学生が論文を読んで質疑応答する形式で、私達の雑誌会に相当する。こちらもProf. Tolmaskyの研究に関連する論文なので、講師の授業時間は長いが、実質的には私達とあまり変わらないのかもしれない。 Prof. Tolmaskyの授業を受講した学生が大学院では彼の研究室に進学することも多いそうである。大学院の授業で学生はアンチセンスに関する論文を紹介していたので、私はアンチセンスの働きに関与するリボヌクレアーゼHの基質認識機構と触媒機構についてセミナー形式で紹介した。発表は1時間ほどであったが、発表後に多くの質問を受け、学生が興味を持ってくれたことがわかり嬉しかった。Cindyの講義で学んだ教授技術が少しは役に立ったのかもしれない。帰国後、すぐに英語コースの授業も始まるが、受講生は20−30名であり、FD研修で学んだことを生かす絶好の機会なので、まずは受講生全員の名前を覚えることから始めて、対話型授業に積極的に取り組みたいと考えている。

 最後に、今回のFD研修を支援して頂いた大学院GP「国際連携大学院FDネットワークプログラム」に深く感謝したい。また、今回のFD研修プログラムを支援して頂いたCSUFのUniversity Extended Education (UEE)の学部長であるDr. Harry NormanおよびSchool of Natural Science and Mathematicsの副学部長であるDr. Mark Filowits、FD研修プログラムの企画、運営に携わったUEEのMs. Melem Sharpe、私達の滞在中にお世話頂いたUEEのMs. Lisa Xue、Ms. Carol Creighton、Mr. Arthur Wang、Ms. Michelle Hernandez、私達の授業を担当して頂いたMs. Cindy Bertea、Mr. John Marshall、Mr. Bruce Rubin、そして授業を見学させて頂いたメンター教授の先生方に深く感謝したい。さらに、阪大側職員として今回のFD研修のお世話を頂いた松本玲子事務補佐員に深く感謝したい。