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海外FD研修
第1回 FD研修
カルフォルニア州立大学フラトン校FD研修報告
生命先端工学 細胞動態学領域 内山 進

 今回、2009年3月9日より3月21日までの間、カルフォルニア州立大学フラトン校(CSUF)において海外FD研修を受けたので、その報告を行う。CSUFは、米国以外からの留学生が多く、修士課程までの教育に特化した大学である。また、CSUFでは英語を母国語としない教員のトレーニングにも力を注いでおり、今回の研修内容やサポート体制は概ね納得のいくものであった。研修プログラムは、授業参観、ワークショップ、および講義訓練から構成されており、連日朝から夕方まで受講したが、多くの内容が科学の教育に関するものであった。今回参加した6名全員に個別指導のためのメンターがついたが、日本で私が担当する授業と同じ細胞生物学を専門とする教員であるBen Murray博士が私の担当となったため、有意義なディスカッションができた。

 米国では既に20年以上前から教育改革が開始され現在でも更なる改革が行われているとの説明を受けたが、実際に授業に参加してみると効果的でインタラクティブな教育が行われていることが体感出来た。CSUFでの授業は、学生を授業に「興味を持たせ、飽きさせず、集中させる」ための工夫が多くなされていた。特に、学生の集中力が持続する時間の把握(20分ルール)、Clickersと呼ばれる機械を利用したクイズによるリアルタイムでの習熟度把握、異なるクイズ形式の利用といった手法は、効果的な教育方法であり我々も積極的に導入したい。また、学生からの反応が悪い場合には教員の教育方法が悪いという考え方が徹底されており、教員が質問をしても学生から返答が無い場合には学生が返答しやすい質問に変更するといった工夫を常に行っていた。こうした学生を授業に引き込む工夫や努力は重要であると痛感した。学部の早い段階からのインタラクティブな教育は、学生が研究室に配属となった際に教員もメリットを享受できることからも大いに実践すべきであると感じた。

 その他、研修から知った日本と米国の教育の差異は、日本では可能な限り多くの内容を学生に伝えることに重点が置かれるが、米国では学生を飽きさせないように各トピックのエッセンスを伝えることに重点が置かれている点がある。USCFでは出席や試験に基づく評価は日本よりも厳しく、試験ではエッセンスだけでなく詳細な中身まで質問される。そのため、学生が授業をフォローし単位を修得するためには、十分な予習と復習が必須であり、トータルの学習時間は日本の大学生よりも長いようである。それでも大学を中退する学生の比率は米国の方が日本より高い(USCFでは最終的には3〜4割が中退するとのことであった)。その理由をCSUFの複数の教員に尋ねると、授業について行けない場合もあるが、大学卒業以外の他の選択肢を見つける場合も多いとのことであり、進路についても米国の多様性を感じた。

 今回の研修の成果について自らの今後の授業における活用を記載したい。論理的思考の教育は日本語英語問わず重要であることは論を待たないが、あらゆる分野でグローバル化が進んでいる現在、科学においても英語での会話や読解におけるリズムとスピードは重要なポイントである。さすがに英国人や米国人ほどのスピードを習得することは難しいが、英語を母国語とする人が会話するスピード(ナチュラルスピード)に近いスピードでのコミュニケーション力の習得は訓練により可能であると考えている。アカデミックや企業において活躍する人材の育成のためにも、ナチュラルなリズムとスピードを重視した英語での教育を行いたい。そのために今回のように海外研修を受けられたことは非常に良い機会であった。今後は研修の成果を生かし英語でのインタラクティブな授業を積極的に実践したい。また、教員の英語力の維持と更なる向上のために、継続的にトレーニングを受けられる環境が整備されることを願っている。最後になるが、研修の間にお世話になった菊地和也教授をはじめとする他の参加者の教員の方および参加にあたりサポート頂いた金谷茂則教授と松本玲子氏に感謝の意を表したい。