(4)その他の低温菌由来蛋白質の研究

    SIB1 株由来 RNase HIII(SIB1 RNaseIII)は 226 アミノ酸残基から成り、その配列は S. oneidensis MR-1 株由来 RNase III(MR-1 RNase III)と 85%、 大腸菌 RNase III と67%の同一性を示す。大腸菌 RNase III と高いアミノ酸配列の同一性を示すことから、本酵素は大腸菌 RNase III 同様ホモダイマーとして存在すると考えられる。私達は、 SIB1 RNase III と MR-1 RNase III の活性や安定性を比較することにより、SIB1 RNase IIIが低温適応酵素としての特長を示すかどうか解析している。
    SIB1 RNase III は応用面でも興味深い酵素である。RNase III は2本鎖 RNA(dsRNA)を塩基非特異的に切断する酵素で、 rRNA 前駆体からの rRNA の切り出しやバクテリオファージ T7 の”early” mRNA の切り出しなどに関与するが、 長鎖 dsRNA から RNAi に適した長さ(21-23 mer)の RNA を切り出すことに利用されている。ただし、大腸菌 RNase III はこのような目的に利用できない。 なぜなら、大腸菌RNase III を用いた場合は 10 数mer の低分子 RNA が生じてしまうからである。一方、 低温菌由来 RNase III は長鎖 dsRNA をゆっくり分解するのでこのような低分子 RNA は生じにくい。実際、 低温菌 Shewanella sp. AC10 株由来 RNase IIIが si-RNAse IIITM としてタカラから市販されている。なお、 RNAi(RNA interference)とは Si RNA(Short interfering RNA)により配列特異的に遺伝子発現が抑制される現象である。Si RNA とは 21-23 mer RNA のことで、 長鎖 dsRNA が RNase 活性をもつ Dicer によりプロセシングされることにより生成する。しかし、Dicer は動物由来酵素であり、大量に安価に供給するのは困難である。
    CAB1 株由来カテコール 1,2 ジオキシゲナーゼ(CAB1-C12O)は 287 アミノ酸残基から成り、4 量体として存在する。本酵素のアミノ酸配列は、 中温菌由来酵素である Arthrobacter sp. mA3 株由来 C12O(mA3-C12O)と 74%、Streptomyces setonii 由来 C12O と 68%、 Rhodococcus opacus 由来 C12O と 56% の同一性を示す。私達は、CAB1-C12O と mA3-C12O の活性や安定性を比較することにより、 CAB1-C12O が低温適応酵素としての特長を示すかどうか解析している。なお、Arthrobacter sp. CAB1 株も当研究室で分離した低温菌で、SIB1 株同様 20℃ で最もよく生育するが、 4℃ 以下の低温でもよく生育する(3-4-1)。本菌は芳香族化合物分解における重要な代謝中間体であるカテコールを低温でもよく分解する。


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