(4)人工RNA制限酵素 の開発(2003年以後中断)

    RNaseは、cDNA を合成するために必要な酵素の一つとして広く利用されている(1-4-1)。 RNase mRNA から cDNA を作る過程で不要になった mRNA を効率よく分解・除去するからである。他にも、 本酵素は mRNA からの polyA-tail の除去、RNA のエディッティングなどに利用されている。私達は、RNaseの新しい利用法の開発をめざして研究をすすめている。 DNA オリゴマーを RNaseに連結したハイブリド RNaseにより RNA を配列特異的に切断する方法の開発はこのような研究の一つである(1-4-2)。 RNA は、DNA から蛋白質へと遺伝情報を伝えるだけでなく、それ自身多様な構造をとったり修飾をうけたりすることによりいろいろな機能を果たすので、 RNA の配列特異的切断法の開発はこのような RNA の構造や機能の研究に役立つと期待される。
    
私達はこれまでに、大腸菌 RNase H1 [Kanaya, S. et al. (1992) J. Biol. Chem. 267, 8492-8498; Kanaya, E. et al. (1994) FEBS Lett. 354, 227-231] と高度好熱菌Thermus thermophilus由来 RNase H1 [Haruki, M. et al. (2000) Protein Eng. 13, 881-886] を用いてハイブリド RNaseを作成している。 これらの酵素に DNA オリゴマーを連結するためには、まず分子表面に Cys  1 残基だけもつ酵素を構築する。ついで、 5'ー末端にマレイミド基をもつ DNA オリゴマーと反応させると、チオール基とマレイミド基の間にできるスクシイミド結合を介して DNA オリゴマーが酵素に共有結合する(1-4-3)。 このハイブリド RNaseは連結した DNA オリゴマーが二本鎖を形成する領域内でのみ RNA を分解する(1-4-4)。 RNA が分解されると RNA/DNA 二本鎖の安定性は低下しハイブリド酵素は RNA から離れやすくなるので、結果的にハイブリド酵素はターンオーバーし配列特異的 RNA 分解酵素として働く。
    MS2 RNA 
 3569 塩基から成るバクテリオファージ RNAで複雑な stem-loop 構造を有する。 MS2 RNA  2781 番目から 2796 番目までの領域はループ構造を形成すると予想されているが、 この領域の塩基配列に相補的な 16-mer DNA を高度好熱菌 RNase H1 に連結した d16-TRNH は目的配列内で MS2 RNA を切断する(1-4-5[Chon, H. et al. (2002) Protein Eng. 15, 683-688]。 この反応の至適温度は 60 である。一方、9-mer DNA を大腸菌 RNase H1 に連結した d9-ERNH  132-mer 及び 534-mer のインビトロ転写産物を 37 で配列特異的に効率よく切断する[Nakai, C. et al. (1994) FEBS Lett. 339, 67-72]。 これらの結果は、DNA オリゴマーと RNaseの種類をうまく組み合わせればどのような RNA でも連結した DNA と相補的な配列内でのみ特異的に切断するハイブリド RNaseを構築できることを示唆する。 細胞内の特定 RNA 分子をターゲティングして分解除去する方法は、ガンやウィルス病など人類の健康を脅かす病気の治療法として大変有効である。なぜなら、このような方法が開発されれば、 ガン遺伝子やウィルス遺伝子が体内で発現してもこれらの mRNA だけを特異的に分解できるからである。従って、ハイブリド RNaseを細胞内に導入し細胞内の特定の mRNA を分解できるかどうかを調べることは大変興味深い。

 なお、本研究は2003年以後中断している。


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